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阿漕に30からも女というのなら。

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エゴスプリットし続ける自分も愛し、自我分裂快楽主義者としての自分を確立しよう。揺るぎ無い主義として。斜に構え心に浮かぶウタカタをしばし沈思黙考。音楽で清め文学に溺れる。どれもこれもホントの私。

人間失格1

自分たちはその時、喜劇名詞、悲劇名詞の当てっこをはじめました。これは、自分の発明した遊戯で、名詞には、すべて男性名詞、女性名詞、中性名詞の区別があって然るべきだ、たとえば、汽船と汽車はいずれも悲劇名詞で、市電とバスは、いずれも喜劇名詞、なぜそうなのか、それのわからぬ者は芸術を談ずるに足らん、喜劇に一個でも悲劇名詞をさしはさんでいる劇作家は、既にそれだけで落第、悲劇の場合も然り、といったようなわけなのでした。

「いいかい?煙草は?」と自分が問います。
「トラ(悲劇《トラジデイ》の略)」と堀木が言下に答えます。
「薬は?」
「粉末かい?丸薬かい?」
「注射」
「トラ」
「そうかな?ホルモン注射もあるしねえ」
「いや、断然トラだ。針が第一、お前、立派なトラじゃないか」」
「よし、負けて置こう。しかし、君、薬や医者はね、あれで案外、コメ(喜劇《コメデイ》の略)なんだぜ。死は?」
「コメ。牧師も和尚も然りじゃね」
「大出来。そうして、生はトラだなあ」
「ちがう。それも、コメ」
「いや、それでは、何でもかでも皆コメになってしまう。ではね、もう一つおたずねするが、漫画家は?よもや、コメとは言えませんでしょう?」
「トラ、トラ。大悲劇名詞!」
「なんだ、大トラは君のほうだぜ」
こんな、下手な駄洒落みたいな事になってしまっては、つまらないのですけれど、しかし、自分たちはその遊戯を、世界のサロンのも嘗つて存しなかった頗る気のきいたものだと得意がっていたのでした。
by itsme.itsumi | 2005-04-05 21:17

by itsme.itsumi