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阿漕に30からも女というのなら。

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エゴスプリットし続ける自分も愛し、自我分裂快楽主義者としての自分を確立しよう。揺るぎ無い主義として。斜に構え心に浮かぶウタカタをしばし沈思黙考。音楽で清め文学に溺れる。どれもこれもホントの私。

人間失格2

またもう一つ、これに似た遊戯を当時、自分は発明していました。それは、対義語《アントニウム》の当てっこでした。黒のアント(対義語《アントニウム》の略)は、白。けれども、白のアントは、赤。赤のアントは、黒。
「花のアントは?」と自分が問うと、堀木は口を曲げて考え、
「ええっと、花月という料理屋があったから、月だ」
「いや、それはアントになっていない。むしろ同義語(シノニム)だ。星と菫だって、シノニムじゃないか。アントでない」
「わかった、それはね、蜂だ」
「ハチ?」
「牡丹に、…蟻か?」
「なあんだ、それは画題(モチイフ)だ。ごまかしちゃいけない」
「わかった!花にむら雲、…」
「月にむら雲だろう」
「そう、そう。花に風。風だ。花のアントは、風」
「まずいなあ、それは浪花節の文句じゃないか。おさとが知れるぜ」
「いや、琵琶だ」
「なおいけない。花のアントはね、…およそこの世で最も花らしくないもの、それをこそ挙げるべきだ」
「だから、その、…、待てよ、なあんだ、女か」
「ついでに、女のシノニムは?」
「贓物」
「君は、どうも、詩《ポエジイ》を知らんね。それじゃ、贓物のアントは?」
「牛乳」
「これは、ちょっとうまいな。その調子でもう一つ。恥。オントのアント」
「恥知らずさ。流行漫画家上司幾太」
「堀木正雄は?」
この辺から二人だんだん笑えなくなって、焼酎の酔い、独特の、あのガラスの破片が頭に充満しているような、陰鬱な気分になって来たのでした。
by itsme.itsumi | 2005-04-05 21:35

by itsme.itsumi